都市と都市 ★★★★★

都市と都市 (ハヤカワ文庫SF)

都市と都市 (ハヤカワ文庫SF)

内容(「BOOK」データベースより)
ふたつの都市国家“ベジェル”と“ウル・コーマ”は、欧州において地理的にほぼ同じ位置を占めるモザイク状に組み合わさった特殊な領土を有していた。ベジェル警察のティアドール・ボルル警部補は、二国間で起こった不可解な殺人事件を追ううちに、封印された歴史に足を踏み入れていく…。ディック‐カフカ的異世界を構築し、ヒューゴー賞世界幻想文学大賞をはじめ、SF/ファンタジイ主要各賞を独占した驚愕の小説。

これは凄い。面白かった。
基本は殺人事件を追う警部補の一人称。ハードボイルド、ミステリ小説。
科学の語彙が無いという点においてはSF要素無いんだけど、『ユダヤ警官同盟』のような改変歴史SFよりもSFらしく感じた。

というのも、「地理的にほぼ同じ位置を占める」とは半端無くて、隣に別の国の人が居ても見てはいけない、見なかったことにするという、ありえない設定。壮大な「王様の耳はロバの耳」世界。でもそこに現実味を持たせるのが著者得意のディテールの積み重ね。『ペルディード・ストリート・ステーション』でもそうだったけど、異世界描写が本当にうまいので、なんか実在してもいいような気になる。世界設定が徐々に明らかになっていく感じも絶妙。最後は世界設定そのものがミステリ小説としての核にもなっていく。

読んでて、カズオ・イシグロの『充たされざる者』がちょっと似てるなと思ったら、カズオ・イシグロが本書を絶賛していたらしい。あと、『プリズナーNo.6』も似た感じ。ついでに、クリストファー・ノーランあたり映画化しないかな。

ところで、SF/ファンタジイ主要各賞は独占だけど、ミステリ業界での評判はどうなのか。国内の書評を見ても、ミステリの人の感想はイマイチな感じを受けたんだけど。