なめらかな世界と、その敵 ★★★★★

 「SFが読みたい」 1位。

図書館で頼んでから半年くらい待った?

表題作=巻頭作は、創元の年刊SF傑作選で読んでた。

ということにラストの方で気づいた...

奥付を見たら、6作中4作が年刊SF傑作選収録で、2作既読らしい。

なめらかな世界と、その敵

なめらかな世界と、その敵

  • 作者:伴名 練
  • 発売日: 2019/08/20
  • メディア: 単行本
 

 以下、ネタばれ。

1. 表題作。多世界を横断できるのが常識な世界観から始まって、逆転の展開に見事な青春もの的着地。

 

2. 次、架空のSF史。レムの『虚数』みたいな形式で、実際のゼロ年代の内容を100年前の明治時代に叩き込むという。さらに平安時代までたどっちゃう。すごい。

 

3. 「美亜羽へ送る拳銃」伊藤計劃トリビュートということで、タイトルもそのまんま。SF設定等もかなり踏襲してるし、何しろ作中でイーガンや伊藤計劃が聖書扱いという。しかし、それらを踏まえた上で自意識をめぐる二転三転の恋愛ものだった。これが表題作でもいいのでは、という素晴らしさ。(でもトリビュート感まるだしタイトルだから...)

 

4. 既読。どんなだか忘れたけど、前回は特にコメント残してなかった。あとで再読。

 

5. シンギュラリティものを冷戦時代ソビエトに持ってくるという。ある意味スチームパンク的な。面白いが終盤に謎設定が。雪風みたいなMIG-21のあたり。

 

6. 最後は書下ろし中編。いきなり極端な設定を持ってくるパターンから、主人公の情緒的な描写や、ある程度は社会の変化なども丁寧に書く。二重構造的なプロットもあり。恋愛ものかと思ったら後半二転三転。「美亜羽...」とちょっと通じた感触もあり。良作。しかし、SF的にも回収してくれ面白いけど、さすがに細部に色々無理がある感じ。ちょっと寓話的。

 

総じて、作品によりそれぞれ意外性、内容のバラエティ、文学性、文体(特に歴史もの)などが素晴らしく、読みたい 1位は納得。